そもそも体温計って何?
体の健康状態を確認する上で必ず確認するのが体温です。高い低い程度であれば、額や腋に手を当てることで判断することもできますが、検査などでは正確な数値を求められます。そこで使用されるのが体温計です。
日常生活でも当たり前に使う体温計ですが、皆さんは体温計についてどれだけのことをご存知でしょうか?体温計の歴史や種類、あるいはその測り方は1つではないのです。そこでこちらでは体温計の基礎知識をつけていただくために、体温計とは何か、ということについてご紹介してきます。
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体温計の概要
まずは体温計の根本的な概要からご紹介していきます。
体温計とは人間を含む動物の体の温度、つまり体温を計測するための温度計です。人間の体温を測ることを目的足したものでは32~42℃までの範囲を測定できるよう作られています。
42℃以上を測定できないのは、体温が42℃を超えるような生命の危機に瀕した状態においては正確な体温を測定することにあまり意味がないためです。体温計の種類については後述しますが、そのどれもがこの42℃を限界値としており、電子式では「H℃」などと表示され、それ以上の温度は計測されません。
体温計の歴史
それではこの体温の原型はいつ作られたのでしょうか。その歴史は古く、今から400年以上も遡ります。
諸説ありますが、1609年のイタリアでサントーリオ・サントーリオが最初の体温計を考案したと言われています。ただこれには1612年という説もあります。サントーリオ・サントーリオはガリレオ・ガリレイの同僚であり、その発明である温度計を使って人体の温度を測定したことで知られています。体温計はかなり昔から使われていることが分かります。
日本に体温計が渡ってきたのはそれから2世紀もあとのことだと言われています。さらにしばらくは海外の体温計に頼り切りでしたが、やがて1883年に日本初のガラス製水銀体温計を山口県防府市の薬局店主柏木幸助によって作られ販売されたと言われています。体温計の詳しい歴史については関連ページにて説明させていただいているので、そちらをご覧ください。
体温計の種類
それでは続いて体温計の種類についてご紹介してきます。体温計の分類はやや複雑なので、まずは分類分けを以下のようにまとめてみました。
表示による分類 | 動作原理による分類 | 形状による分類 | |
アナログ式 | 気体の熱膨脹式 | 棒状 | |
水銀式 | 棒状 | ||
灯油・アルコール式 | 棒状 | ||
デジタル式 | サーミスタ式 | 実測式 | 棒状 |
予測式 | 棒状 | ||
赤外線式 | 棒状 | ||
プローブ+レシーバ式 | |||
液晶式 | プローブ+レシーバ式 |
このように細かな分類が存在します。今も一部現役の水銀式や、現在の主流となるサーミスタ式、技術の発展により誕生した赤外線式や液晶式については他ページで詳しく触れていますので、そちらで詳しく解説させていただきます。
こちらでは「アナログ式とデジタル式の違い」、「実測式と予測式の違い」、「気体の熱膨張式」と「灯油・アルコール式」の簡単なご紹介をさせていただきます。
アナログ式とデジタル式
アナログ式 | デジタル式 |
まず大きく分けることが出来るのはこの「アナログ式」と「デジタル式」になります。この2つの違いについて少し詳しく見ていきましょう。
アナログ式
体温計本体に刻印されている目盛りから体温を読み取る形式です。測定液には水銀を利用した棒型のものが一般的となっています。
体温計誕生以降、長く使用されていましたが、使用前の目盛を最低温度以下に戻す操作に強く何度も振る必要があるなど手間がかかることや、この操作中に物にぶつけてしまうなどで損傷した際に毒性を持つ水銀が流出するなどの安全性の問題、デジタル式の高精度化や低価格化が進むに連れ、現在は少なくなりつつあります。
デジタル式
サーミスタや赤外線検知回路、それを制御するマイコンを組み込んだ電子回路によって測定する形式になります。形状はアナログ式同様に使えるよう、薄型の棒状に近いものが多く、体温は小型の液晶ディスプレイなどの表示装置を通じて読み取ります。一般的な家庭でもサーミスタ式を使うことが多いので、現在はこちらの方が馴染があることだと思います。
電子回路を持つため動作には電源が必要で、ボタン電池、乾電池などを用いています。販売当初は水銀式に比べ価格が高く、精度も劣っていましたが、価格の低下と精度の改善が進められました。
また電源オンでリセットされる、またはリセットボタンを押すだけで、アナログ式のような使用前のリセットの手間がないなど使いやすいことも相まって、現在では家庭のみならず病院や診療所などの医療機関でも主流となっています。
実測式と予測式
続いて実測式と予測式の違いです。この違いは名前からも予想がつく方もみえるでしょうが、この測定方式の違いによって時間が大幅に変わります。それではこちらもその仕組みを詳しく見ていきましょう。
実測式
センサー部分の温度をそのまま表示するタイプになります。センサーの温度が体温と等しくなった時点で初めて計測完了となります。この、これ以上上がらない温度のことを平衡温といいます。
水銀式とサーミスタ式の一部のものがこの方式となっていますが、サーミスタなどデジタル式もアナログ式の水銀式も腋で10分、口内で5分程かかります。時間はかかりますが、より正確な体温を表示します。最近はサーミスタ式だと3分程度で計測終了するものもありますが、平衡温に達するには10分を要し、この時間では完全な実測値とは言えないので注意してください。
予測式
実測式とは異なり計測開始からのセンサー部分の温度上昇のカーブから最終的な温度を予測・計算の上で体温の表示を行うタイプです。
上述の実測式の欠点とも言える「長い測定時間」を短縮するために、テルモが日本ではじめて開発した方式ととなります。膨大な体温上昇データを統計的に処理し、演算式にして、約20秒の短時間で体温を測ることができるのです。
ただ演算しているとはいえ、あくまで予測値であるため正確性にやや難のある機種もあり、予測式の体温計を嫌う医師もいます。数学者の西山豊は予測式電子体温計の問題点を指摘し、計量法の改正で意見を述べています。
そのような欠点を補うために、予測式としての計測終了の合図があった後も計測を継続したり、モードを切り替えたりすることで実測式として機能する機種も開発・販売されるようになりました。
気体の熱膨張式
続いて動作原理の1つ気体の熱膨張式についてです。こちらが歴史でも触れた、サントーリオ・サントーリオにより開発された初期の体温計の方式です。気体の熱膨張による体積の増加を利用した方式となります。開発当初こそ画期的な物でしたが、より簡便で精度の高い水銀式やデジタル式が普及したため、現在では全く使用されていません。
灯油・アルコール式
こちらは水銀式普及後、安全性の問題から水銀式の原理をそのままに、水銀に代わって着色した灯油・アルコールを使用したものとなります。こちらも安全性の観点で一時期普及したものの、一般的に精度の面で水銀使用のものに劣ることや、電子式の普及によりこのタイプの体温計は従来よりもあまり使用されなくなってきています。
体温計の測定方法
さて、体温計の種類については理解していただけたと思います。そこで続いては体温計の測定方法について見ていきたいと思います。体温計の測定方法は主に腋に挟む方法が一般的となりますが、実はそれだけではありません。全部で5種類の測り方があるので、こちらではそれを1つずつご紹介していきます。
舌に挟む使い方(舌下温・口腔温)
舌の下に体温計を挟んで計測する方法で、より体の中心に近い体温を測定できる方法です。主にはサーミスタ式の体温計を用います。こちらは腋に挟む次に一般的な測定方法ではないでしょうか。
咥え方が不十分で外気温の影響を受けたりすると正確な体温が測定できないため、舌下の奥までしっかりと挿入し、中央についている舌小帯と呼ばれる膜の左右どちらかに当てて固定する形で測定します。水銀式の場合は完全な平衡温度に達するのに、5分以上必要なため時間がかかります。
女性が測定する基礎体温の記録は原則としてこの方法で行います。また米国や一部の欧州では舌下での測定が主流で、衛生面の観点から歯ブラシのように個人個人が自分の体温計を所有する習慣の国もあります。
腋に挟む使い方(腋下温・腋窩温)
腋の下の腋窩と言う凹みに体温計を挟んで計測する日本では最も一般的な測定方法です。こちらは水銀式やサーミスタ式の体温計を主に用います。
これは病院や医務室などの公共の場所で体温計を共有する場合、衛生面を考慮して選択されるためです。また、家族で体温計を共有することによる抵抗感や水銀体温計使用時の破損に対する危惧等から、家庭でもこの方法を採用するため主流となりました。
発汗があったり、しっかりと体温計を挟み込んでいなかったりすると正確な体温が測定できないため測定時には腋の水分を拭き取り、隙間なく挟み込む必要があります。体表で測定するため、舌下温よりもやや低く測定されることが多くなります。また水銀式の場合は完全な平衡温度に達するには10分程度を要します。
肛門に挿入する使い方(直腸温)
肛門に体温計を挿入して計測する方法で、舌下温よりもさらに体の中心に近い体温を測定できるため、腋下温や舌下温よりもやや高く測定され、より正確な実測値を得られます。
外気による体表温度への影響を最も受けにくく正確性が高いため、死体の検視・検案や生命に危険を及ぼす重度の高体温・低体温の診察に用いられます。また舌下や腋下での計測が難しい乳幼児や体の自由がきかない患者、あるいは全身麻酔での手術中の体温を計測するときに用いられます。
基本的には意識のある人では羞恥心や不快感をもよおす場合が多いため、上記の条件を満たさない限り、そのような人たちに用いられることはありません。完全な平衡温度に達するには、3~5分以上を必要とします。、欧州、特に北部では直腸での測定が主流で、舌下温同様、歯ブラシのように個人個人が自分の体温計を所有する習慣の国もあります。
耳の穴に挿入する使い方(鼓膜温)
耳穴に赤外線式の体温計を挿入して計測する方法です。中心体温の中でも特に、脳温に近い値を測定できるという利点があります。また腋下温よりもやや高く測定されることが多いです。
数秒で瞬時に計測できるため、安静を保つことが難しい乳幼児や、救急現場で着衣の傷病者に対して早急に概況把握するときに利便性があります。ただ、挿入の角度などによって誤差が大きくなりやすいため、正確性には劣る面があります。
額の表面温度を測る使い方
消毒用薬剤の不足するような場所で使用される方法です。接触による感染症等を防ぐために赤外線式温度計で5cmほど離れた場所から額の表面温度を測定します。また液晶式の体温計を使うこともありますが、こちらは赤外線式温度計より精度が低く、非常時の体温把握として用いられる方法となります。